こんにちは、世田谷店の種部です。
ステファン・ハンセン選手のQ&Aも今回で最終回です。今回は技術面の話だけではなく、ハンセン選手がプロになる経緯についても話してくれています。
Q:エイミング中の重心はどこにありますか?前後どちらかに偏っていますか?左右どちらかの足により体重をかけていますか?
ステファン・ハンセン選手(以下Sと表記します):ぼくは少し後傾しているとよく言われるけど、意図してやっているわけではなく、自然にそうなるんだ。かなり重い弓を支えているからね。何か重いものを持った時のことを想像してもらえばわかると思うけど、(片手に)ウエイトか何かとても重いものを持つと、体はその重さに耐えようとして自然にバランスを調整しようとするものなんだ。重心がフォームのできるだけ真ん中に近づいて、よりバランスが取れるようにね。ぼくが少し後傾するのは、重い弓を支えるために自然にバランスを取っているということなんだ。上体を後ろに傾けなかったら、(弓の重さに耐えかねて)前のめりに倒れてしまうだろう。
弓をさらに重くしたら、ぼくのフォームもさらに後傾すると思うけど、それは考えてそうしているということではなくて、体がバランスを保とうとして起こる自然な現象なんだ。左右の足の体重配分については気にしたことはないけど、たぶん後傾しているので右足により多くの体重がかかっていると思う。重心は右足寄りにあるんじゃないかな。
Q:アンカーリングしてから何に意識を集中しますか?伸び合いの方向のイメージは真っすぐですか、それとも回転を意識しますか?
S:エイミング中はリラックスすることを重視していて、引き続ける意識はあまりないんだ。(リリーサーを)引っ張って切るという意識はなくて、アンカーリングしてエイミングし始めたら弓の抵抗を支えているだけ。ただホールディングしながら、手でリリーサーを回転させてリリースしているんだ。もし引っ張ってリリーサーを切ろうとしたら、ドットが動いてしまって詠美軍がうまくいかないんだ。だから、ただ弓を支えているだけで自然にリリーサーが切れるようにしている。
Q:エイミングを安定させるのに引き尺設定と(弓の)重量バランスを重視しているという方からの質問です。ステファン・ハンセン選手は(エイミングを安定させるために)何か重視していることがありますか?
S:ぼくもウエイトを足したり引いたりするけど、ほかにはセンタースタビライザーを5°とか10°とかアングルをつけたりしても同じような効果があるね。今の弓(スープラフォーカスXL)はまっすぐの方が良いので、アングルはつけてないけど。
引き尺については、自分のフォームに合った適切な引き尺というものがあって、違和感がなくて最もショットエクスキューションしやすい引き尺に合わせることが重要だと思っている。エイミングに関しては、引き尺でどうこうするのではなく、スタビライザーのウエイトを調整する方が良い。
Q:ストリングについての質問です。ストリングを自作していますか?ストリングの素材は何を使用していますか?
S:ストリングの素材が何かは実はよく知らないんだ。たぶんBCYの素材だと思うけど、適当なことは言っちゃだめだよね。ストリングに関してはGASボウストリング製のものを使っていて、100%信頼している。GASボウストリングがどんな素材を使用して、どんな作り方をしているか知らないけれど、要は(そのストリングを使って)良いパフォーマンスが出せればそれでじゅうぶんだ。(GASボウストリングに)指定しているのはスープラフォーカスXL用のストリングセット、ということだけで、送られてきたものをそのまま使っている。
自分でストリングを作ったことはないし、作ろうとしたこともない。道具もいろいろ必要だし、そういうことはプロに任せて、ぼくはぼくが得意なことに力を注ぐ方が良いと思っている。ストリングについては、ぼくは自分が使っているストリングのストランド数も知らないし、たとえそれが100本でもかまわないので、実績がありストリングづくりを熟知しているGASボウストリングに任せて、ぼくは、ぼくが得意なことをやるだけさ。
Q:WAの3D世界選手権に参加する予定はありますか?
S:それはどうかな。3Dは距離を読むのがたいへんで、それなりの準備が必要だ。それに、WAの3D世界選手権に出場するにはデンマークで3Dの大会に3、4試合出場しないとならないが、ぼくはプロのアーチャーで、アウトドアターゲットのワールドカップやアメリカの賞金がかかったトーナメントなど、稼ぐために出場する試合のほとんどが海外で行われているから、国内の試合に出る余裕はあまりないんだ。デンマークの森の中でアニマルターゲットを射つことより、プロとして稼ぐために賞金額の大きい試合や(スポンサーのために)注目度の高い試合の方が優先される。醒めた言い方かもしれないけど、ぼくにとってアーチェリーは仕事でもあるわけだからね。
Q:トップに立つための鍵は何だと思いますか?
S:ぼくは「パッション」が鍵だと思うね。ぼくはいつも一番になりたいと思っていたので、どうしたら一番になれるのか考え、挑戦し続けてきたんだ。それが今の自分につながっている。挑戦し続けること、努力し続けることを嫌だと思わないので、もし何かうまくいかなくて悔しかったらもっと努力してやろうと思うんだ。
ときにはそれが裏目に出ることもあって、(何かうまくいかないときに)練習しすぎると負のサイクルに陥ることがあるよ。練習しすぎて疲れるとうまく射てなくなって、そうなると頭にきて、さらにうまく射てなくなる…という感じでね。とにかく、ぼくは負けるのが嫌いで、勝ちたいというパッションに突き動かされていると言っても良いね。
Q:自分が「レベルアップ」したと感じた経験はどんな時でしたか?
S:ぼくは6、7歳で(アーチェリーを)始めたので、(今のレベルに到達するまで)長い長い道のりを歩んできたと言えるね。始めたばかりのころは同じカテゴリーに1歳年上の友達がいて、いつも彼に負けてばかりいた。彼に初めてシュートオフで勝った試合は今でもよく覚えているよ。それ以来、時々彼に勝てるようになったし、ぼく自身少しずつうまくなっていったと思う。それからしばらくして、彼が11歳になって上のカテゴリーに移ったら、ぼくはその年は負け知らずで、その年代の国内記録を全て塗り替えていったんだ。そのカテゴリーで一番年長だったからね。その1年後ぼくも彼と同じカテゴリーに移ったんだけど、彼は以前ほど練習をしなくなっていたし、ぼく自身前よりもうまくなっていたから、そのころからぼくはアーチェリーで一番になれると思い始めていたと思う。
そしてぼくが13か12歳の時、スカンジナビア選手権がぼくの町で開催されて、ぼくが参加できる(年齢の)カテゴリーがなくて上のカテゴリーにエントリーすることになって年上の子たちと射ったんだけど、その大会で3位になったんだ。大会で活躍できたとはいえまだまだ幼かったから、すごいアーチャーになろうとは思っていたけど、焦らないで少しずつ段階を踏んで行こうと思っていた。そうしているうちに世界選手権や国際大会のメンバーに選ばれるようになったんだ。それが2009年か2010年のことだけど、そのあたりから自分が将来やりたいことがだんだんはっきりしてきたかな。
ただその当時はプロになるとかアーチェリーでお金が稼げるとか想像できなかったので、ぼくとしてはただ一番になりたいと思っていただけで、プロになることは考えていなかったよ。自分の最高のパフォーマンスが出せるようになることが当時の目標だった。ぼくのアーチェリーのキャリアの中では、2011年のポーランド大会(ユースの世界選手権)で世界チャンピオンになったことが、大きな転機だったと思う。それでもプロになれるかどうかわからなかったし、アーチェリーで生計を立てられるかどうかなんてわからなかったので、できるだけたくさん試合に出てできるだけ良い成績を残すことを考えていた。そしているうちにいろいろなことが少しずつ変わっていって、いくつかの試合で結果も出るようになり、2015年デンマークで行われた世界選手権で優勝した時についにプロになったんだ。ほんとうは世界選手権の後学校に通う予定だったんだけど、良いスポンサー契約も結べたし、プロと言える収入が得られる可能性が出てきたので、友達と相談してとりあえず1年プロとしてやってみて様子を見ることにしたんだ。学校には通わず1年やってみて、うまくいったのでもう1年やってみようということになった。気が付いたらもう5年目になるけど、プロとして何とかなっている気がするよ。
4回にわたってお送りしたステファン・ハンセン選手のQ&Aいかがでしたでしょうか。
ハンセン選手は感覚派のアーチャーという印象がありますが、より良い結果を出すための考え方みたいなものが伝わってきましたね。
2月9日火曜日の日本時間朝の7時からは、コンパウンド界のレジェンド、デイブ・カズンズ選手のライブQ&Aがありますので、そちらもお楽しみに。
例によって英語の動画配信ですが、後日翻訳をブログにアップして行きます!