世田谷店の種部です。好評だったYOU TUBEのQ&Aですが、今回のゲストは「本物のGOAT*」と他のトップアーチャーから称されるくらいのトップアーチャー、デイブ・カズンズ選手です。1999年にアウトドアターゲット世界選手権初出場で優勝という華々しいデビューを飾って以来、アウトドアだけでなくフィールド、インドア、3Dなどあらゆる競技で世界タイトルを手中に収めてきたコンパウンドアーチェリーのレジェンドですね。個人的にはデイブ・カズンズ選手は私のコンパウンドの師匠と言っても良い存在で、ベガスシュートやその他の国際大会で会う度にコンパウンドについていろいろ教えてもらいました。初めて話をしたのは2000年のベガスシュートで、雑誌アーチェリーの記事を書く関係でインタビューしたのがきっかけでした。その当時から、目標は「レジェンドになること」と言っていたのを覚えています。前置きはこのくらいにして、さっそくQ&Aの内容をお伝えしていきましょう。
*the Greatest Of All Timeの頭文字を取った略語。史上最高の選手
デイブ・カズンズ選手Q&A その1
Q:今回はコンパウンドアーチェリーのレジェンド、デイブ・カズンズ選手をお招きしてお送りします。紹介の必要はないと思いますが、簡単に自己紹介と主な戦績の紹介をお願いします。
Dave Cousins(以下Dと表記):デイブ・カズンズです。フルタイムのプロフェッショナル・アーチャーになって今年で25年になります。1998年以降、何度もアメリカ代表になっていって、今までに30以上の世界記録を射ち、17の世界タイトルを取っています。ベガスシュートも複数回優勝しています。初めて射った世界記録は、確か1999年で18mインドアラウンドだったけど、その記録は17年間くらい破られなかったね。20年以上破られていない記録もあります。
フルタイムのプロアーチャーである以外に、メーカーの製品開発のアドバイス、テストや評価をしたりするコンサルティングもやっていて、アーチェリー関連以外のアウトドア用品メーカーにも関わっています。趣味としてボウハンティングを少々と、釣りをたくさんたしなみます。実はフィッシングガイドの資格も持っています。
Q:それでは質問に移ります。まず現在使用している弓具について教えてください。弓だけでなくリリーサーやスタビライザーなどもお願いします。
D:弓は、今のところPSEスープラフォーカスXL-LDとPSEサイテーション40の二つを並行して使っています。サイテーションもスープラフォーカスXL-LDと同じエボルブカムシステムを搭載していて、どちらも引き尺は31-1/4インチでピークウエイトは60ポンドです。インドアもアウトドアも同じセッティングで射ちます。
スタビライザーはコンクエストアーチェリーのスマックダウンスタビライザーの625で同じコンクエストアーチェリー製のオフセットブラケットを使用しています。
アローレストはハムスキーに「デイブ・カズンズ・シグネチャーモデル」のベストランチャーを使用。アローレストにはハムスキーのオーバードローマウントをつけています。
ストリングはファーストストリングのX-ITワイヤーのマグナムタイプ。
矢は、イーストンの2315(X23)と2712(X27)、そしてプロツアーの380番を使用しています。(この3つで)WAのインドアからNFAAのインドア、アウトドアターゲットとフィールドまで、だいたい全ての試合をカバーできます。(インドア用もアウトドア用も)全てベインはガスプロで、(インドアの矢には)ガスプロの「デイブ・カズンズ・シグネチャーシリーズ」の2.8インチベイン、アウトドアの矢には「デイブ・カズンズ・シグネチャーシリーズ」の2インチのパラボリックベインを使用しています。
ベインの色はグリーンと決めています。グリーンを使う理由はアウトドア、インドア、フィールドとシチュエーションを問わず、目立つからです。
サイトはシブヤのアルティマCPX2、スコープはシブヤの新製品オクルススコープです。
リリーサーはカーター・ジャストカズ、ジャストビーカズそれからヒンジタイプのトータルコントロールを使用しています。
Q:弓のスペックをもう少し詳しく聞かせてください。
D:今はスープラフォーカスもサイテーションも引き尺は31-1/4インチ、AMO規格で(現在はATA規格ですね)射っています。先ほど60ポンドと言いましたが、(正確には)57~58ポンドで引いています。WAの大会のために(60ポンドより)少し低めに設定しています。というのも、普段使っているボウスケールと(大会で使用するボウスケールが)同じキャリブレーション(目盛補正)とは限らないからね。ドローウエイトを直さなければならいとなったら、ホールディングウエイトも変わるし、そんな最悪な事態は避けたいよね。
だから意図的に60ポンドより少し低めになるようにセットして、そのままにしています。世界を半周してWAの大会にはるばるやってきて、60ポンドぎりぎりに設定していた弓が弓具検査で60.1とか60.2ポンドと計測されるなんて目には会いたくないからね。
ホールディングウエイトについては、ボウスケールで単純に計った時には、ヒステリシス込みで、それはケーブルシステムやベアリング、ケーブルガードなどの摩擦抵抗なども加味されてということなんだけど、だいたい18ポンド。ただし、実際に射とうとして引いた時、ドローイングして、引手をアンカーポイントに引き付けて、次にリリーサーにエンゲージして押手を的に向かって伸ばした時には(ホールディングウエイトはもっと上がって)、リリーサーが切れた時点では、20~21ポンドくらいになっていると思う。
Q:ところで、今いるところはどこですか?アーチェリーショップみたいですが、セミナーのためですか?
D:そう、2週間にわたるセミナーツアーの最終日です。先週はオクラホマ州ムスタングにあるワートーン・アーチェリーというショップで地元のアーチャーを対象にコーチングクリニックと講義を行い、そのあとちょっと東海岸の北にあるメイン州の自宅に戻って雪かきをして、オレゴン州のラ・グランドに来ています。オレゴン州の東側の町でポートランドから車で4、5時間のところにあります。今回の参加者はほとんどがリクリエーションとしてアーチェリーをやっているクラブのメンバーで、そこに競技志向の全国レベルのアーチャーや若い世代のアーチャーが数名いて、男性も女性も良い感じの割合でしたね。
セミナーの内容は、そうだね(アーチェリーに関する)ほとんど全てのことをカバーします。「消火栓から水を飲む」ように、この2日分に学ぶアーチェリーに関する知識は、みんなが知りたいと思っているフォームや考え方などあらゆることが詰まっていて、(2日間では)消化しきれないくらいの内容じゃないかな。
セミナーの1日目は、アーチェリーの弓具チューニングの技術面の基礎知識について学びます。内容的には、箱から出したばかりの弓を試合で使える状態にするところまでに行う全ての作業について…矢の選び方、初期チューニング、スタビライザーのバランスからトルクチューニングまで、できるだけ多くのことを1日でカバーします。
そして、これらの内容をただ座学として講習するだけではなく、実際に参加者全員の弓具の端から端まで直接指導します。参加者の弓をチェックして、カムタイミングの最適化、センターショット、ペーパーチューニング、ベアシャフトチューニングからトルクチューニング、スタビライザーのセッティングを変えるところまでやって、弓をその人にとって最も合った状態に持って行きます。そこまでできたら、今度は射ち手の能力や技術面に取り組む番です。それが2日目の内容になります。
2日目の内容は、私の射ち方がどういう風に成り立っているのか細部に至るまで解説していきます。そして、どうやってそういう射ち方を築き上げたのか、その背後にある考え方やこの方法がシンプルで再現しやすいため実際の試合のプレッシャーやストレスがかかる場面でも使えると信頼できる理由についてもカバーします。地元のレンジや自分の家の裏庭で射つと、どんなやり方でもたいていうまくいくものだけど、試合のプレッシャーの洗礼を受けた時にはそうはいかない。
射ち方を生体力学的に(身体の)どこをどう動かしているか、どうやって再現しているかを説明していきますが、この話をするときには、メンタル面の働き…「プレショット・ルーティンをどう組み立てるか、そのプレショット・ルーティンをどう管理するか」ということと、「どうやって(自分の射を)自己診断するか…何がうまくいっていて何を改善する必要があるかを判断するか」というテーマが話の背後に常につきまとっています。
Q:(メンタル面の話がでたところで)プレッシャーがかかって緊張した時の対処法についての質問が来ているので、もし簡単ですぐに効果が出るようなプレッシャーへの対処法みたいなものがあれば教えてください。
D:そうだね。その前に知っておいてほしいのですが、トップクラスのレベルになってもプレッシャーから逃れることはできないんだ。トップクラスの選手は、(経験から)ほんの少しだけ対応の仕方がうまくなって、(プレッシャーに)対処できることもあるというだけのこと。
私がおすすめする対処法のまず一つ目は、試合で経験する感情を呼び起こすような環境で練習することです。いつでも好きな時に試合に行けるわけではないので、難しいと思うかもしれませんが、地元の射場やショップ、自宅の裏庭などどこであっても、ひとりで練習する場合でも、私は常に自分が過去に経験した試合の場所や勝負がかかった場面を頭の中に思い描いて練習することができます。
この質問をしたということは、このアーチャーは試合でプレッシャーがかかる経験をしたということだと思います。その時の場面を思い出して頭の中で再現して練習するのです。そしてさらに、試合の場面を想定して練習する際には、一射一射をどう射つか、「作戦」を考えて射つことが試合のプレッシャーに対処するのに役立ちます。まず目標は何か?わたしの矢がXリングの真ん中に刺さること。そしてそれを達成するために必要ないくつかの鍵となる要素ついて考えます。例えばサイトの見え方とかドットが的の一定の範囲で一定のリズムで動いていることとか。一方で身体的な要素としては、弓を引いてくるときに引手側に力を蓄えること、リリーサーにエンゲージすること押手を的に伸ばすこと、ピープとスコープを合わせることなどがあげられます。これこそがあなたが1本の矢をどう射つかの「台本」なのです。
試合だけでなく、むしろ練習の時こそ、一射一射この台本を通りに射とうと考えて、実際にやることが大切なのです。(シチュエーションを想定して「台本」通りに射つ練習は)メンタル面で非常に多くの作業が要求されるので簡単なことではありませんが、これをやることによって不安や緊張、プレッシャー、ストレスなど心理的に追い込まれるシチュエーションに遭遇した時に、その状況に見覚えがあるように感じるはずです。今状況は前に経験したことがあると感じることによって、そこから成功する道に進むか失敗する道に進むか自分の意志で選択することができるようになります。失敗する道をえらぶということは、これまで練習してきたことを顧みず、アドレナリン(興奮)や緊張、プレッシャーに飲み込まれてしまうことです。成功への道を選ぶということは、舞い上がっていることを認め、普段通りに射つことが難しいと感じていることを認めると同時に作戦を立てるのです。完ぺきにこなせないかもしれないとわかっていても、プレショット・ルーティンをひとつひとつ実行するために最大限努力することはできます。
私は「普通の射」をすれば、常に10点に当たります。しかし、(プレショット・ルーティンの)何かを飛ばしたり、いつも段より早いリズムで引いたり、楽をしようとしたりといったように、いつもと違うことを選択すると失敗し、10点には当たりません。逆に自分が普段できている「普通の射」をすることで、自分が望む結果が得られる可能性が非常に高いということなのです。その際、意識集中させる対象は(目的を達成するための)プロセスであるべきで、結果ではありません。
アーチャーは誰もが結果によってもたらされる代償がなにかわかっています。トロフィーであったり賞金の小切手であったり、世界記録、ベルトバックル(訳注:ベガスシュートで900点満点を射つともらえる特製のベルトバックルのことか)、自己ベスト、リーグで優勝することとかどんなレベルのものであっても、プロセスに意識を集中しないと結果はついてこないのです。
今回はここまで。次回のテーマはエイミングとショットエクスキューションについてカバーする予定です。かなり具体的で実践的な内容になっているのでお楽しみに。
~レジェンド、デイブ・カズンズ選手のQ&Aライブ その1
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