こんにちは。世田谷店の種部です。少し間が開いてしまいましたが、今回は皆さんお待ちかねのチューニングがテーマです。新しい弓を箱から出して、試合で使えるようにするところまでのチューニングについて説明しています。でもチューニングについて説明する前に、言っておきたいことがあるようですよ。
デイブ・カズンズ選手Q&Aその5
Q:たくさんの人からチューニングに関する質問が寄せられていて、カズンズ選手が新しい弓をセットアップする時の手順がどんなものか知りたいということです。
デイブ・カズンズ選手(以下Dと表記します):おっと、時間は足りるかな? 私が行っている初期設定とチューニングについてまず一番に言えることは、非常にシンプルでベーシックなことしかやっていないということ。皆さんが聞いたことがないようなチューニング方法はやっていません。(チューニングに関しては)望むなら好きなだけ追求して、迷宮に迷い込んでも良いと思います。ただ、正直に言って、後でまた(チューニングの)基礎に戻るので、ちょっとここで話が逸れても良いですか。
一般のアーチャーとトップアーチャーの場合で、(アーチェリーのパフォーマンスを左右する)三つの要素の優先順位をどう考えているか説明しましょう。一般のアーチャー、クラブやレクリエーションレベルのアーチャーの場合、最新の最も優れた弓具で、最高のチューニングをして、最も精度の高い最高のセッティングにこだわり、センターショットをチェックしたり、タイミングをチェックしたり、ストリングやピープの回転など、様々な弓具のテクニカルな面に関することを第一に考えています。
2番目に来るのは、家の裏庭やクラブやショップのアーチェリーレンジで弓をどれだけ射ったかということです。そして優先順位の最後に来るのが試合の場面に備えるためのメンタル面の要素、すなわち試合で実力を発揮できるようにメンタルトレーニングを行い、メンタルツールを身に着けることです。
では、トップアーチャーの場合はどうでしょう。三つの要素の優先順位が全く逆なのです。最も重視されているのがメンタル面の準備です。非常に大きなストレスがかかる試合のいろいろな状況や場面に対応するためです。試合で効力を発揮するメンタル面のテクニックをトレーニングによって身に着けることです。それは(勝敗を決する)瞬間にどう対処するか、実際に弓を引く前のルーティンをどう組み立てるか、次の射や次の試合で良いパフォーマンスをするために何ができるか、何をすべきか分析するといったことです。
2番目に重要なのが、一番時間をかけるシューティングの練習です。そして優先順位が最も低いのが、弓具が最新の最高のものかどうか、弓具のチューニングがどうかといたった弓具に関することです。輝かしい成績を残しているコンパウンドアーチャーの中には、自分の弓をいじらない、あるいはいじれないという人もいます。彼らは(チューニングは)コーチやショップ、アーチェリー仲間や家族に任せて、本人は何もしないのです。にもかかわらず良い成績を残せるのは、(パフォーマンスを発揮するための)優先順位が、メンタル面、身体面、弓具面の順番で構成されているからです。
皆さんお待ちかねのチューニングに話を戻しましょう。私としては、皆さんに優先順位を逆に考えてほしいと思っているのですが、アーチェリーは趣味であり、楽しみであり、道楽なのですから、自分が楽しいと思う分野に労力を注ぐのは当然のことでもあります。弓を良い状態にチューニングするという技能を極めることを楽しんでいる人たちは決して少なくないと思います。ペーパーチューニングで完ぺきなブレットホールを達成したり、ベアシャフトチューニングでベアシャフトが完ぺきな刺さり方をするようにしたりすることを止めるつもりはありません。
それでは私のチューニングの手順について説明していきましょう。
①ティラーハイト
弓を箱から取り出してまず最初に行うことは、ティラーハイトを同じに合わせることです。ティラーハイトというのは上下それぞれのハンドル(とリム)の支点からストリングまでの最短距離のことです。どうでもよいことのように思われるかもしれませんが、私はとても重視しています。
一番締めこんだところでリムボルトに印をつけて、(同じ回転数)緩めて行ってピークウエイトを合わせるというやり方もあるのは知っていますが、もし上下のリムの強さが均一でなかった場合、プラス側、マイナス側のどちらのずれであっても、弓の上下の向きが本来あるべき角度からずれてしまいます。
ティラーハイトのが弓に与える影響は、何よりもまず上下のリムの強さのバランスによって弓の角度に影響が出て弓の向きが(上向きになったり、下向きになったり)変わってしまうという点です。それは弓を射つときにグリップの角度が変わることであり、グリップした手への納まり方が変わってしまうということです。
私の場合、初期設定は必ず上下のティラーハイトが同じ、すなわちハイトの差が0で設定します。そして実際にグリップしてみた時に、グリップの感触とサイトピクチャーの状態を自分に合わせるために(エイミング時のドットの動き方の傾向に応じて)上下のティラー差を調整する必要がある場合は、もちろんティラー差を調整します。しかしそれはチューニングのもっと後の段階で行います。
②ケーブルガード
次にケーブルガードを合わせます。ケーブルガードは最近見過ごされていることが多いチューニングの要素の一つだと思います。すべての弓が私が行っているようなチューニングに対応したケーブルガードを備えているわけではありませんし、中にはケーブルガードが全く調整できないモデルもあります。
ケーブルガードの第一の役割は矢が弓を通過する際にクリアランスを保つことにあります。ベインがケーブルやその他の障害物に触れることがないようにするためですが、ケーブルガードの価値はそれだけではありません。それはトルクのかかり方を誘導することで、トルクを軽減することはもちろん、場合によってはトルクを加える調整も可能です。弓の構造によって、トルクをかけたり、軽減したりすることが必要なのです。
皆さんトルクは「悪いこと」と教えられ、そう信じてきたと思いますが、確かにトルクが人為的にかかること、弓にアーチャーが何らかのちか 皆さんトルクは悪いものと教えられ、そう信じてきたと思いますが、確かにトルクが人為的にかかること、弓にアーチャーが何らかの力をかけることは「悪いこと」です。なぜなら(人為的にかかるトルクは)毎回一定にすることができないしプラス・マイナスどちらかの側に極端にかかるかもしれないからです。これは有害なトルクです。
一方で、弓自体に構造的に発生するトルクは、チューニングの道具として使うことができます。それは変化しないもので、毎回同じようにかかるトルクだからです。リカーブボウでリムポケットを(左右に)動かしてリムのアラインメントを調整するのと同じことです。コンパウンドでカムのスペーサーを入れ替えて左右の位置を変えて弓から矢が射ち出される向きを調整して、ペーパーチューニングできれいな穴が開くようにすることと同じで、ケーブルガードの位置を入れる(弓に近づける)ことでトルクを軽減し、外に出す(弓から遠ざける)ことによってトルクを多きくすることでチューニングすることができるのです。このことはしばしば見過ごされています。
ケーブルガードの初期設定としては、ベインのクリアランスが得られるぎりぎりまで内側に入れておきます。ただし、もっと後の段階で矢飛びのチューニングの際に、ケーブルガードの位置を動かす可能性があることは頭に入れておいてください。
③カムタイミング
次にカムタイミングを合わせます。 私はカムタイミングは動的に合わせるべきだと思います。静止状態のカムタイミングについてはあまり気にしていません。カムに刻印されたタイミングマークとケーブルあるいはリムとの位置関係とか、カムの出っ張ったところからストリングまでの距離とか、そういった静止状態でのタイミングは初期設定としては良いかもしれません。しかし、スタビライザーやサイト、カウンターロッドなどの重さやグリップを支える手の形、ストリングのどこを引いているかなどの要素が、実際にフルドローした時のカムタイミングに、はっきりと影響を与えます。カムのシステムによって影響の大きさに違いはあるものの、(フルドローで合わせることは)忘れてはならない重要な問題です。
一般のアーチャーはしばしばこのことを見過ごしがちですが、カムタイミングはハンドルが「たわむ」ことによって変わる可能性があります。この世に存在するすべてのものは「たわみ」ます。あなたの前にある机も、あなたが歩いている道路も「たわみ」ます。顕微鏡的に見れば、動いているのです。そして私たちが弓を引いた時も、カーブルが巻き取られカムが回転し、リムがプレスされることで力が加わり、ハンドルに「たわみ」が生じます。コンパウドボウが発射されるところの毎秒800~1200コマのハイスピード撮影の映像を見れば、ハンドルがたわんでいるのがわかります。 あなたが想像する以上にたわんでいます。
バイターのホームページでコンパウンドボウやリカーブボウの発射の瞬間のハイスピード撮影の動画が見られます。そういうのを見ればハンドルが全く動かないものではなく、たわむということが、そしてたわみ方が大きいものもあれば、少ないものもあるということが理解できると思います。
もしハンドルが上下均等にたわまなければ、弓を引いた時にケーブルが巻き取られ、ストリングが送り出されるにつれてカムが前後にずれたり、左右にずれたりします。ハンドルの上下でたわみ方が異なると、一方のカムがもう一方のカムよりも速く動くことによって、静止状態のタイミングと動的なタイミングに違いが生じることになります。
ストリングの異なる場所でドローイングしたり、カムの種類によってはリリーサーのー変わりに素手でストリングをつかんで引いたりしただけでもカムのタイミングが変わることがあります。これはストリングのどこを引くかによってケーブルの巻き取られ方やストリングが送り出される量が変わるためです。
説明が回りくどかったかもしれませんが、要するにカムタイミングはフルドローでピッタリ合うように、つまり上下のカムが同時に回りきるようにタイミングを合わせます。これはあくまでも弓本体のチューニングにすぎません。後で矢飛びのチューニングをしたり、グルーピングの精度を上げたり、テンションをかけながらエイミングした時の弓の挙動が一番良い状態にしたりするためにカムタイミングをこの初期設定から変える可能性はあります。私の場合、上のカムの方が下のカムよりもほんの少し早く回りきって止まるように調整しています。そうすることによって(カムが回りきった後に)微妙な伸び合いの感覚やわずかな余裕が生まれるので、一射一射の人間的な誤差を拾いにくくなったり、ハンドルを押してストリングを引っ張る力をかけた状態でエイミングの安定感が良くなったりするのです。
今回はここまで、次回はチューニングの続きで、ノッキングハイトとセンターショットについて取りあげます。