~イーストンのウエイトコードにまつわる謎を解き明かそう

こんにちは。新宿店の種部です。
アウトドアシーズンに向けて矢を新調しようと考えたとき、矢を選ぶ時のポイントとはなんでしょう。
軽さ(=スピード)、耐久性、断面密度、価格…いろいろな要素があると思いますが、
「均一性」というのも重要な要素だと思います。

均一性ということを考えた時に思い出したのがイーストンのシャフトのウエイトコードです。
イーストンのACE、X10などの競技用シャフトのハイエンドモデルには、
レーザー刻印でC.4などのアルファベットと数字を組み合わせたマーキングが入っていますね。
実はCで始まるこのマーキングはシャフト重量の分類コードなのですが、
これが意味するものが何なのか、実はよく知られていないのではないでしょうか。
今回は元イーストンの主任エンジニアで、X10シャフトの開発にも携わったジョージ・テクミチョフ氏による、
イーストンのウエイトコードについての解説を紹介します。
イーストンのウエイトコードにまつわる謎を解き明かそう
フィンガーリリースするリカーブボウの場合、スパイン以上に重要な要素はないといえます。
使用する一本一本のシャフトのスパインが全て均一であることが、アローシャフトの集中性の要なのです。
アローシャフトがリカーブボウから射ち出される際の動きを見たら、その理由は一目瞭然ですね。
毎回同じようにグルーピングするためには、全てのアローシャフトが同じたわみ方をしなければなりません。
スパインの重要性
アーチャーのほとんどは「スパインの均一性」がスコアを左右するとなんとなく感じていると思いますが、
それがパフォーマンスに与えている影響の大きさを具体的に知っているアーチャーは少ないかもしれません。
スパインの許容誤差がどれだけスコアに影響を与えるか見極めるテストを行ったことがあります。
その当時(1990年代)のアメリカ代表でオリンピックのメダリスト、デニス・パーカー選手に
6週間にわたってテストしてもらい、70mで1射1射の正確な的中位置を記録してデータを集めました。
使用したアローシャフトの半分は(イーストンの規格で作製された)均一なスパインで作られた製品で、
残りの半分はイーストンの規格に満たない精度の低い規格のスパインで作製されたものでした。
テストに使用したアローシャフトは外見から区別できないようになっており、
デニス・パーカー選手にはどれがどのシャフトか全く分からない状態で射ってもらいました。
2点の差
6週間にわたるテストを終えて記録を分析したところ、12射ごとの合計スコアでみると
均一なアローシャフトとそうでないものとの間には2点の差があることが判明しました。
2点というのは、国際大会やオリンピックのマッチ戦(12射の合計で勝敗を決していたころの)の
約80%のマッチの勝敗を分けたスコアの差です。現在のセットポイント制のマッチ戦でも、
2点の差が勝敗の分かれ目となることは十分考えられます。
それほどスパインの均一性がアーチェリーのパフォーマンスにとっていか重要だということです。
X10、プロツアー、ACE、ACG、などイーストンの競技用アルミニウム/カーボンシャフトには、
C2とかC3等のアルファベットと数字を組み合わせた「ウエイトコード」と呼ばれるものが刻印されています。
この記事の目指すところはウエイトコードとは何か、なぜウエイトコードで分類することが大切なのか、
そしてそれがスパインの均一性とパフォーマンスの向上にどう関わっているのかを解説することです。
アルミニウムとカーボンの素材の特性
まずウエイトコードを理解する上で、アローシャフトを作るための材料について少し知っておいてください。
特にその材料の単位重量当たりの剛性(硬さ)がどう数値化されるかについて知っておく必要があります。
このような材料の性質を数値化するのによく使われるのが、ヤング率あるいは弾性率と呼ばれる数値です。
純粋に均一性だけを考えるなら、アローシャフトの材料としてはアルミニウム合金に勝るものはありません。
アルミニウム合金に関する限り、アローシャフトに加工した際の単位重量当たりの剛性は驚くほど均一です。
シャフトの肉厚、口径(内径および外径)、そして同芯度(シャフトのまっすぐさ)といった数値が均一であれば、
アローシャフトとしての硬さ(スパイン)も均一になります。一本一本のシャフトの数値が同じであれば、
シャフトのスパインの測定値にばらつきが出ることはなく均一性の高い矢がそろうことになります。
アルミニウム合金は非常に安定した弾性率を有しており、生産ロットによる個体差がほとんどありません。
例えばXX75シャフトに使用されているアルミニウム合金の弾性率は10,400,000psiであり、
それが1964年に製造されたものであっても、先週作られものであっても、その材料の単位重量当たりの剛性と
同じサイズのXX75シャフトのスパインは常に同じで矢としては高い均一性を持っているのです。
7075アルミニウム合金はそのくらい単位重量当たりの剛性の値が均一で、
それこそがアルミニウム合金という材料の最大の特性でもあります。
ところがカーボンの場合はそう簡単ではありません。現在流通しているカーボン繊維の場合、
単位重量当たりの剛性は+/-2,000,000psiのばらつきがあるのですが、
この差異は競技用の矢を作製することを考えると見過ごせないくらい大きいものなのです。
例えばカーボンアローの上位モデルに使用される一般的なカーボン繊維の弾性率が46,000,000だとすると、
矢のメーカーが材料に元々含まれているばらつきをコントロールする手間を惜しむと、
弾性率のばらつきは44,000,000から48,000,000の範囲まで広がってしまいます。
この誤差は矢にとっては非常に大きいものです。
さらにカーボン繊維を矢の素材として一体のものにするのに使われるエポキシ接着剤や
その他のポリマー樹脂によっても、個体差が生じてしまいます。
カーボンに含まれる樹脂の割合は厳格な精度で管理されなければ、
「体積弾性率」が均一なカーボン材料を作ることはできません。
体積弾性率は、カーボンとエポキシ等のように2種類の材料を組み合わせた材料、
すなわち一般的なカーボンコンポジット素材の剛性の目安としてもちいられます。
しかし樹脂とカーボン繊維の比率は製造行程や素材そのものの誤差の影響を受けます。
アローシャフトの作製を開始した時点での素材の鮮度すらも、
出来上がった製品の剛性を大きく左右することが起こりうるのです。
それは製造行程で生じてしまう誤差によりさらに拡大されてしまうおそれがあります。
要素のどれかひとつでもばらつきがあると、製品としてのアローシャフトの硬さに大きな影響が出ます。
いくつかの要素のばらつきが重なりあうと、完成品のスパインの均一性が大きく損なわれてしまいますが、
実際に市場に流通している製品の中にはそのくらいスパインが均一でないものも見受けられます。
体積弾性率の均一性はアローシャフトの精度にとって非常に重要なものなので、
イーストンでは材料や製造行程に由来するばらつきを最小限にとどめるための特別な対策を講じています。
まず、イーストンはカーボン繊維メーカーと直接取引をすることにより、
シャフトの製造に必要な形状にした時に剛性の均一性が最も高い、厳選された素材を仕入れることが可能です。
最高のカーボン繊維メーカーから供給される厳選された材料のみを使用し、
さらに材料が加工行程に流れる際にも検査することによって、
カーボン素材のばらつきを最小限に抑えることが可能になっています。
もうひとつの重要な要素は、アローシャフトの製作行程…超高精度のアルミニウムコアの製造、
カーボンを巻き付ける下処理から接着乾燥、機械加工、曲がり修正、その他の仕上げ作業に至るまで…
をユタ州ソルトレークにあるイーストンの自社工場内で行っているという点です。
この一貫生産体制により、「均一なシャフト」の生産のために欠かせない製造行程の様々な要素を
コントロールしているのです。
しかし、最高品質のカーボン繊維材料を使用し、製造過程の不確定要素をきめ細かく管理していたとしても、
カーボンシャフトの加工後のばらつきを完全に排除することは難しいのですが、
この問題に対処する方法は二つあります。
均一なスパインのための課題
一つ目の方法はアローシャフトの完成時の重量を均一にすることを優先し、
スパインの数値のばらつきには目をつぶるというもの。
この製法ではこの記事の冒頭で取り上げたようなパフォーマンスの問題をかかえることになります。
二つ目の方法は、(特にリカーブアーチャーにとって)最も大切な要素「スパイン」を優先するというもの。
そこでウエイトコードの登場です。
イーストンでは一本一本のシャフトを決められた通りのスパインになるように正確に加工し、
その後でもうひと手間かけて個々のシャフトの重量を計り、重さに応じてグループ分けしています。
すなわちウエイトコード毎に分類する作業を行っているのです。
ウエイトコードの解説

X10のシャフトには写真のように906 A/C/X10・410・SERIES Aなどとマーキングされています。
「906」はアルミニウムコアのサイズを表しており、最初の一桁が外形、残りの二桁が肉厚を表しています。
906とは外径が9/64インチでシャフトの肉厚が0.006インチであることを示しています。
ちなみに全てのサイズ(スパイン)のX10シャフトには同じ906サイズのアルミコアが使用されています。
A/C/X10は言うまでもなくモデル名でアルミニウム/カーボン/X10。
410はスパインの硬さを表しており、ATA(アメリカのアーチェリー業者団体)の規格で
過重をかけた時のシャフトのたわみ量が0.410インチであることを示しています。
SERIES Aはそのサイズ(スパイン)のモデルの仕様変更の履歴を表しており、
長年にわたり製産されている間に供給される素材やその他の仕様に何らかの変更が加えられた場合、
別のシリーズコードが割り振られます。
シリーズの変更はごくまれ(10年に一度あるかないか)で、しかもアローの性能にはほとんど関係ないので
(異なるシリーズのシャフトを)混ぜて射ってもグルーピングに影響は出ることはほとんどありません。

レーサー刻印されているのがシリアルナンバー(生産ロットを識別するためのもの)とウエイトコードです。
写真のX10の場合、ウエイトコードはC2と表記されているのが見えます。
イーストンでは何千本ものシャフトが造られる生産ロット毎に、終的なスパインチェックが終わった段階で
全てのシャフトを個々に重量を計測して重量分布のチャートを作成しています。
グラフにするとちょうど釣り鐘型の曲線を描くことになような重量分布になります。
ACEやX10などの競技用モデルのスパインの許容差は(360度全周方向で)+/-0.0015インチ(0.0381ミリ)です。
ひとつのサイズ(スパイン)の一回の生産ロットで製造される何千本ものアローシャフトの最も軽い個体と
最も重い個体の重量の差はおよそ5~6グレイン(0.320~0.384グラム)で、
これらのシャフトが個体差1グレイン(0.064グラム)以内のグループに分けられてそれぞれにウエイトコードが与えられます。
さらに1ダース毎にパッケージされる際には、より精確な重量分布の補正が行われています。
ウエイトコードで管理されている全てのイーストンのプレミアムモデルの競技用シャフト、
ACE、X10、ACGなどの製品の重量分布の範囲は1.5グレイン(0.097グラム)内であり、
販売されている1ダースのパッケージ内のシャフトの重量誤差は+-0.5グレイン(0.032グラム)に収まっています。
ウエイトコードによって管理されていることの利点の一つは、
例えばX10のC.2とC.3のような隣り合った二つの異なるウエイトコードのシャフトを混ぜて射ったとしても、
実際に使用したときにグルーピングに悪影響が出ることはないと数値によって確信が得られるという点です。
イーストンは、エンドユーザーが常にスペック通りのスパインのアローシャフトを手に入れられることを目指して、
矢の精度にとって極めて重要なスパイン(の均一性)のために、他のメーカーがまねできない厳しい生産管理を行っています。
イーストン独自のウエイトコードによる製品管理によって、常に同じスペックのアローシャフトを提供することが可能になっているのです。
ウエイトコードは、今日あなたが買ったアローシャフトと以前に買ったアローシャフトが全く同じスペックであることはもちろん、
あなたが将来買うであろうアローシャフトも同じものが手に入ること保証するためにイーストンが講じている様々な方策のひとつなのです。
イーストンの競技用アルミニウム/カーボンアローが、1984年以降の全てのオリンピックチャンピオンに選ばれている大きな理由は、
こうした様々な努力によって「均一性の高さ」が保証されているからではないでしょうか。
以上ジョージ・テクミチョフ氏による解説でした。難しい部分もありましたが、イーストンの競技用シャフトの精度の高さの裏には
こんな努力があったのですね。今年はアウトドアシーズンはまだ先になりそうですが、こんな時だからこそ
新しい矢をじっくり選んでみては。私はコンパウンドアーチャーですが、50mという距離を考えると「超軽量シャフトで的まで早く到達」
させた方が良いのか、「比重の重いシャフト」の方が良いのか悩みます。70mだったら、コンパウンドでも迷わず比重の重いシャフトを選びますが…
渋谷アーチェリー新宿店ではメールによるご相談も受け付けておりますので、お気軽にお問い合わせください。
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