設計者が語るアルティマⅡRCサイト テクニカルノート ①~新しいサイトを作った訳は?~

ブログをご覧の皆さん、こんにちは!

ご無沙汰しております。SHIBUYAオリジナル製品の開発をしている製造部の梅澤です。

先日発表を行いましたシブヤのリカーブボウ用サイトとしては約10年ぶりの新作となる、【アルティマⅡRCサイト】について詳しく紹介をしていきます。(発売は2/25〜となります)

今回発表したアルティマⅡは、名前の通り現行のアルティマRCサイトをベースに作られています。これまで、現行のアルティマRCサイトについて皆さんにお伝えする機会が無かった事もあり、まずはアルティマⅡにも引き継がれている現行のアルティマRCサイトのコンセプトや特色について書きたいと思います。

現行のアルティマRCサイトは、2004年のアテネ五輪で量産試作機を数名の選手に使って頂いた後、2005年より発売を開始しました。それ以来、10年以上に渡り世界中のビギナーからトップアーチャーまで幅広く使用して頂き、現在でも販売数が毎年伸びています。ここで新しいモデルを出さなくても良いのでは?と思ってしまう程、皆さんの支持を頂いており、開発・改良・生産に携わった者として、アルティマサイトを手にシューティングラインに立った全てのアーチャーの方々に改めて感謝致します、本当にありがとうございます。

現行のアルティマRCサイトの開発をしていた2003年頃は、サイトブロック(サイトボックス)にロックねじがあり、それを締める事でサイトブロックをエレベーションバー(サイトバー/サイトレール)に固定するタイプが主流でした。【シブヤ デュアルクリックサイト】がイメージしやすいと思います。

一方、トーナメント形式で勝ち上がって行くオリンピックラウンドが1992年のバルセロナの大会で採用されてから10年程経過しており、この試合形式が広まって来た事で1射に与えられる時間がより短くなって来ました。

こんな中で開発を始めた現行のアルティマRCサイトは、下記3つのコンセプトを元に作られています。

①【シューティングライン上でサイトピンの上下左右の調整がより短い時間でおこなえること】

上下左右の可動部にロックねじを無くしダイヤルを回すだけのアクションで簡単にサイトピンの位置調整を可能にすることで実現しています。特に上下の可動部のロックねじを無くすためには、エレベーションバーとサイトブロックがほとんどガタツキ無く且つスムースにスライド出来るように作らないと、発射時の振動でサイトブロックが動いてしまうリスクが出てきます。そのため“X-LOCK システム”という、ガタツキを最小に調整することが出来る仕組みを考案し組み込みました。

②【耐振性が高いこと(緩む所が少ない)】

当時、上下の可動部のロックねじが無いサイトは既に販売されていましたが、収納時にサイトピンを外せるようになっていて、その部分に固定用のねじがあり、またサイトピンの取付けにはナットを使わないとならないため、緩む可能性のあるところが多い印象でした(もちろんこの形式には、サイトピンを取り付けるパーツをサイトピン毎に用意しておけば状況に応じたサイトピンの交換が手早く行えるというメリットもあります)

これらを極力少なくする構成を念頭に立案を進めたところ、マウントのノブ以外は緩む所が無くなり、また“X-LOCK システム”を採用することで発射時の振動によるビビリを少なく抑えることが出来ました。

③【サイトとして十分な強度/再現性を確保した上で、より軽量であること】

当時販売されていた上下左右の可動部にロックねじの無いタイプのサイトは240~250g程の重さがありました。アルティマRCサイトはサイトピンも含め220gを目指し、且つ、サイトの前側(エレベーション+サイトブロック)をなるべく軽く作り、弓に付いたサイトの重さをアーチャーがあまり感じないようにすることを目標としました。①と②は相反することなく、片方にとって良い設計をすればもう一方にも良い結果になりましたが、③を実現するには〔①と②〕とは相反する場合がほとんどで、地道に〔①と②〕が実現出来る範囲で体積が増えないような形状・大きさに設計したり、カーボンエクステンションの断面積を(必要な範囲で)最小限にしたりといったことで実現しています。

こういったアルティマRCサイトのコアとなる部分がアーチャーの皆さんに幅広く支持を頂いたのではないか?と感じており、開発から10年以上経った今もとても大切なことだと受け止めています。一方でその10年の間にあまり見かけなくなったサイトのメーカーがあれば、新しくサイト作りに加わったメーカーもあり、軽いがアルティマとは違うアプローチで作られた製品も現れました。

もの作りの環境でも開発・設計に使うソフトウェアが進化し金属加工の技術やノウハウも使えるものが増えて来ました。そしてアーチャーの皆さんの感覚や求めているものも変化して来ました。

“究極のサイト”という意味で“アルティマサイト”と名付けましたが、どのレベルで究極といえるのか?はもちろん時代が進めば変わってゆきます。こんな新たな状況の中、渋谷アーチェリーとして“アルティマサイトのコアとなっている部分はそのままの方向でさらに進化”“コアの進化を妨げない範囲で使い勝手・デザイン・信頼性を向上”この2つを目指したサイトを新たに作るべき時が来た、という判断をしました。

〔次回 第二話~サイトの重さとバランスって?~ に続く〕