アルティマⅡRCサイトテクニカルノート③ ~仕組みとボリュームダウン~

ブログをご覧の皆さん、こんにちは!

渋谷アーチェリー製造部門担当の梅澤です。

先日投稿したアルティマⅡRCサイトテクニカルノートの第一話、第二話はお読み頂けましたか?まだお読みで無い方は是非、下記リンクをクリックして頂き、前回記事も読んでみてくださいね。

【アルティマⅡRCサイトテクニカルノート① ~新しいサイトを作った訳は?~】
【アルティマⅡRCサイトテクニカルノート② ~サイトの重さとバランスって?~】

さて、第二話では【サイトの前方をより軽く出来ればバランスへの影響も少なく強度と再現性も保てる】ことをお話させて頂きました。そこで今回は、どうやってサイトの前側を軽量化しているのか?を詳しく見ていきます。

サイトは小さい部品が沢山組み合わさって出来ています。弓に付ける道具の中では一番部品点数の多い道具と言ってよいと思います。前側だけでも現行アルティマRCは63個、アルティマⅡは55個のパーツで構成されています。これらの部品はサイトピンを取付けたり、上下左右に動かしたり、サイトブロックをジャンプさせたりするための機構を実現するために組み込まれています。
(ちなみに上下動の機構を「エレベーション」、左右動の機構を「ウィンデージ」と呼んでいます。)

アルティマⅡRCの前側は下のCGのような構造になっています。

左の画は外観、右の画は横に切断した断面図です。いろいろなパーツが複雑に組み合っているのが分かるかと思います。この中で体積の大きいパーツは、
エレベーションバーの本体と、

サイトブロックの本体、

の2つになります。(写真はアルティマⅡRCのパーツです。)

体積の小さい部品は、軽量化のため体積を削ろうとしても少ししか削れません。そのため、効果的に軽量化をするには体積の大きな部品から削っていくのですが、エレベーション/ウィンデージ/ジャンプの機構の動作や再現性に影響が無いようにしないとなりませんし、耐久性への影響も最少限にしないといけません。

では、エレベーションバーを例に、現行アルティマRCとアルティマⅡRCの体積の違いを見ていきましょう。

左のグリーンの物が現行アルティマRCの、右側のピンクの物がアルティマⅡのエレベーションバーです。現在のアーチェリー競技では、90mを射つことがほとんど無くなってきたため、バーの全長を10mmほど短くし、上下の手前側の角(矢印部分)を斜めに落としています。また、写真では見えない内側はこのようになっています。

それぞれ、左が現行アルティマRCの、右側がアルティマⅡRCの断面図になります。エレベーションバーの外側は、サイトブロックとのスライド面や、目盛りに必要な面があり、そこを削り取ることはほとんど出来ず、加工が難しくなるため、内側を削ることにしました。重ねた図の赤い部分が、アルティマⅡで削った部分になります。

単純に、削って薄くすることで軽くはなっていきますが、当然強度は下がりますので、実使用上の強度になるべく影響が少ないところを薄くしていく必要があります。ここに関しての詳しい部分は、サイト作りの技術の根幹部分なので社外にはお話出来ないところでもありますが、主な手法としては、

●過去のサイト作りの経験から、厚みが必要なところ、そうでないところを判断する。
●ハイスピード撮影により得られた振動の状況から、厚みが必要な部分、そうでない部分を判断する。
●CAEというソフトウェアを使い、コンピューター上で強度解析を行い軽量化設計に生かす。

といった考え方で軽量化をしていきます。もちろん試作品での実射テストによる確認も行います。

上記の作業により、最終的にエレベーションバーの本体は現行品40.7gに対し、アルティマⅡでは35.5gとなり、-5.2gの軽量化になりました。

さて、一旦軽量化の話からはそれますが、ここでエレベーション部分の改良についてお話しさせていただきます。外見からは分からない部分ではありますが、エレベーションのドライブシャフトを保持する構造が、現行アルティマRCサイトから大きく改良されています。現行品は下記左の画像のように、2箇所で保持していますが、

●エクステンションを固定するメネジに、サポートとなる樹脂のオネジを入れて接着剤で固定しているため、サポートの固定は接着剤の耐久性に依存している。
●樹脂のサポートは、ドライブシャフトのオネジのネジ目に直接接触するため尖った点での接触になる。

という2点は、改善の余地がありました。

アルティマⅡRCでは上記右の画像のように、

●樹脂のサポートはエレベーションバー内部の穴に圧入され、それ以上奥に行かないよう穴には底がある。
●ドライブシャフトの中央部にネジ目の無い部分を設け、そこに樹脂サポートが当たる。

という仕組みに改良しました。これにより樹脂サポートは接着剤に依存せず、点ではなく線でドライブシャフトと当たる構造となり、従来よりも振動や経年変化に強い仕組みになっています。

展示品をご覧になったアーチャーの方から、「ドライブシャフトにネジ目の無い部分があり、この部分にサイトブロックが来た時にサイトブロックのメネジとちゃんと噛み合っているのか心配」との声を頂きました。しかし、サイトブロック側のメネジはドライブシャフトのメネジが無い部分に比べ、十分に長さがあるため、この位置にサイトブロックが来ても、オネジ/メネジは十分な長さで噛み合っていますので、ご安心いただいて大丈夫です。元々の設計に余裕があったので今回の改良を行うことが出来ました。

ここで軽量化に話を戻しますが、サイトブロック本体もエレベーションバーと同様の手法で軽量化を行い、現行品22.5gに対しアルティマⅡでは19.8gとなり、-2.7gの軽量化をすることが出来ました。

下の写真、左のグリーンの物が現行品の、右のピンクの物がアルティマⅡのサイトブロック本体になります。見比べてみると、かなり思い切って削り込みをしているのがお分かり頂けるかと思います。

他にも、ダイヤルやウィンデージ部のスライダー/ブラケット/マウントなども、現行アルティマRCより軽量化しています。現行のアルティマRCサイトをお持ちの方は是非、展示品やWeb上の写真とご自身のサイトと比べてみて下さいね。

さて、次回は軽量化以外で改良したところを詳しく紹介したいと思います。

〔次回 第四話~使ってみよう!アルティマⅡ~ に続く〕